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東京地方裁判所 昭和42年(刑わ)5214号 判決 1968年8月06日

被告人 山本慎吾

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

但し本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(事実)

当裁判所が認定した事実は、

(A)  昭和四二年一二月八日付

(B)  同年一二月一四日付

(C)  昭和四三年一月二三日付

各本件起訴状記載の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。

但し(A)中に「同年九月二〇日」とあるを「同年九月二一日」と(B)の別紙二の3及び5の横領物件欄中に「中東問題に対するソ連の動向」とあるを、それぞれ「近東問題に対するソ連の動向」と(C)の別紙の10の電信番号欄に「二二八九」とあるを「二一八九」と同じく11の電信番号欄に「二一〇九」とあるを「二二〇九」と訂正する。

(証拠)<省略>

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、(C)事実にかかる本件電信文は国家公務員法一〇〇条一項にいわゆる「秘密」保護の客体に当るとの点につき立証がないと主張するが、凡そ暗号電信の反訳文たる電信文は、それ自体暗号解読の手段を提供するものとして右秘密保護の客体たるべきものと解するを相当とするところ、(C)の別紙1乃至9の九通については、それが暗号電信の反訳文であつたことの証明は十分であり、同10及び11の二通の電信文については暗号電信によるものであつたか否かが必ずしも明らかではないのであるが、極秘の指定が為されていたことが明らかであり、当裁判所は本条の秘密保護の対象として常にいわゆる指定秘を以て足りるとまでは解しないけれども、合志洋の検察官に対する供述調書添付の附表中の記載内容証人野田英二郎の当公廷における供述等を綜合勘案するに、右二通の電信文は同条保護の対象たるべき内容上の秘密を有していたことを十分に推定せしむるに足りると考えるので、弁護人の所論は、これを採ることができない。

(法令の適用)

被告人の判示所為中(A)及び(B)の第二は業務上横領の包括一罪として刑法二五三条に、(B)の第一の所為は横領の包括一罪として同法二五二条に(C)の所為は国家公務員法一〇〇条一項一〇九条一二号罰金等臨時措置法二条に夫々該当するところ、これと業務上横領とは一所為数法の関係にあるから刑法五四条一項前段一〇条に則り重き後者の罪の刑に従つて、これを処断すべく、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法一〇条四七条により、重き業務上横領罪の刑に法定の加重をなした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処することとし、情状を考察するに、被告人の所為に現れた国家機密に関する綱紀の弛緩は重大であり、大いにこれを糾弾すべきではあるが、被告人は既に免官となり、再犯の可能性もなく、本件発覚の当初から悔悛の情著しいことが明認できるので、当公廷に現われたその他一切の情状を参酌して同法二五条一項一号に則り、被告人に対し本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 井口浩二)

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